並行輸入とは、海外商品を輸入する際、商品製造会社の子会社や正規の契約を結んだ代理店が輸入・販売するのではなく、他の業者が輸入すること。個人輸入代行も並行輸入に含まれる。輸入ルートが2つ並行することから、並行輸入(Parallel import)と呼ばれる。
<消費者視点>
一般的に価格が正規代理店よりも安かったり(内外価格差が大きい商品ほど、並行輸入による価格メリットが大きい)国内未発売の商品が手に入ったりといったメリットがあるが、返品や購入後のメンテナンスなどアフターケアが不十分な場合がある。
<メーカー視点>
輸入総代理店は外国企業から真正商品を独占的に輸入できるため、国内での卸売価格や、小売価格が高くなる場合がある、(独禁法的に、外国企業が日本進出しているのと同視しうるので独禁法違反には当たらないと解される)この場合に別ルートから並行輸入されることがある。輸入総代理店からすれば迷惑千万とも思うが、妨害すると独禁法に引っかかることもあるらしい。
並行輸入をが禁止されれば、ブランド保護をし易くなる(販売店は、管理、販売戦略、ブランド戦略を立てやすい)が、ブランド内競争を制限してしまう。
一方並行輸入を認めれば、国際経済取引の流通を保護(自由に取引できる→経済が活気づく)できるメリットがあるものの、ブランドが毀損しやすくなる。(正規代理店だけが扱えば、値段やサービスの品質を確保できるが、安価でたたき売りされると迷惑。偽物が出まわることも問題)というデメリットが同時に発生する。
<商標法>
日本においては正規代理店が商標を専有して使用できるとして並行輸入業者に対して輸入の差し止めを行うことができたが、1971年からは合法となった(パーカー万年筆事件:大阪地判 昭和45年2月27日 無体裁集2巻1号71頁)。
フレッドペリー最高裁判決では、商標機能論をベースとし、いわゆる“真正品の並行輸入の抗弁の3要件”によって、商標権侵害となるか否かが判断されました。(※ただし、示された3要件では並行輸入は認められにくい)
<特許法>
かつて自動車用ホイールメーカーであるドイツのBBSにて輸入しようとする商品が生産国と日本で特許を有しており、日本におけるその並行輸入品の流通は特許権の侵害にあたるとして正規輸入元が並行輸入業者を訴えた事件があった(BBS事件)。
結論としては、真正商品の並行輸入は、特許権侵害に当たらない。
<著作権法>
101匹ワンチャン並行輪入事件では、頒布権の国際消尽が認められなかった。
しかし、劇場上映用フィルム以外の複製物については、頒布権が国内・国際共に消尽すると解するべきだろう。
<独占禁止法>
また正規代理店が並行輸入品をメンテナンス拒否など差別的に取り扱う場合、その態様、効果によっては独占禁止法上違法な行為となる。かつては輸入車正規ディーラーで並行輸入車のメンテナンスや部品手配は受け付けられなかったが、現在では前述の理由等により問題なく行われる場合もある。
<結論>
並行輸入は特許権も商標権も著作権も及ばない。
合法的な行為と言えそうだが、なんだか倫理的に悪いことのような気がする。
BBS事件
(最高裁 平成9年7月1日判決)
<概要>
判決は、「特許権者が留保を付さないまま特許製品を国外において譲渡した場合には、譲受人及びその後の転得者に対して、我が国において譲渡人の有する特許権の制限を受けないで当該製品を支配する権利を黙示的に授与したものと解すべきである」とし、いわゆる真正商品の並行輸入は、特許権侵害に当たらないとした。
<事実>
ドイツの会社であるBBSは、自動車用アルミホイールについてドイツ及び日本の双方で特許権を有している。ドイツにおいてBBSから正規に特許製品を購入した並行輸入業者が、これを我が国に輸入し、我が国において販売していた。
この並行輸入業者の輸入行為につき、BBSは、日本国特許権の侵害であると主張して提訴した。第一審(東京地裁)判決では、特許権者BBSの主張どおり差止請求が認められたが、その控訴審(東京高裁)判決では、並行輸入業者に対する差止請求が否定された。その後事件は、最高裁に上告され、最高裁は、東京高裁の結論を支持する判決を出した。
最高裁は、「特許製品を国外において譲渡した場合に、その後に当該製品が我が国に輸入されることが当然に予想されることに照らせば、特許権者が留保を付さないまま特許製品を国外において譲渡した場合には、譲受人及びその後の転得者に対して、我が国において譲渡人の有する特許権の制限を受けないで当該製品を支配する権利を黙示的に授与したものと解すべきである。」とした。つまり、真正商品の並行輸入は、特許権侵害を構成しないとの判決を行った。
なお、最高裁では採用されなかったが、上記並行輸入行為は特許権侵害であるという主張は、次のような根拠に基づく。そもそも、各国ごとに特許権が存在し、各国の特許権はそれぞれの国において独立して行使することができる。したがって、上記の例でいえば、業者はドイツにおいてBBSより正規に購入したのであるから、ドイツ国内でこれを再販売することはドイツ特許権を侵害するものではない(特許権用尽の理論)。しかしながら、これを日本に輸入する行為は、日本における特許権者の権利を侵害するものとして規制されなければならない。たとえ、ドイツの特許権者と日本の特許権者が同じである場合であっても、この原則は変わらない。
最高裁は、このような主張を採用せず、真正商品の並行輸入は特許権侵害ではないと判断した。
特許権者の側に立てば、上記のような場合に並行輸入品が出回るのを防ぐためには、判決で示唆されているように、「販売した特許製品についての販売先ないし使用地域に限定を加えたうえで、製品にその旨を明示する」ということが必要となろう。ただし、これはあくまで、日本での判決であり、他国での取り扱いがどのようになるかは、その国の法律による点は当然である。
<私見とか>
真正商品の並行輸入は、特許権侵害に当たらないとしたこの判決は妥当だろう。真正商品の譲渡で、ドイツの特許権が消尽しても、日本国内における特許権は消尽しないのではないかという問題(いわゆる国際消尽の問題)は、最高裁の判断では、消尽し、特許権の侵害とはならない。とされた。
フレッドペリー事件
(最判 平成15年2月27日判決)
<事実の概要>
商標権者から使用許諾を受けた者が、その条件に違反して、中国の工場で商品を生産し、それに商標を付して、この商品が我が国へ輸入した。
品質は同じでも、真正商品ではない。
→違法である。
<解説>
この事件では、真正商品の並行輸入が肯定された。(最高裁で初?)
商標権者以外の者が、我が国における商標権の指定商品と同一の商品につき、その登録商標と同一の商標を付したものを輸入する行為は、許諾を受けない限り、商標権を侵害する
しかし、そのような商品の輸入であっても、
1.当該商標が外国における商標権者又は当該商標権者から使用許諾を受けた者により適法に付されたものであり、
2.当該外国における商標権者と我が国の商標権者とが同一人であるか又は法律的若しくは経済的に同一人と同視し得るような関係があることにより、当該商標が我が国の登録商標と同一の出所を表示するものであって、(同一人性の要件)
3.我が国の商標権者が直接的に又は間接的に当該商品の品質管理を行う得る立場にあることから、当該商品と我が国の商標権者が登録商標を付した商品とが当該登録商標の保証する品質において実質的に差異がないと評価される場合、(品質管理性の要件)
には、いわゆる真正商品の並行輸入として、商標権侵害としての実質的違法性を欠くものと解するのが相当である。商標の使用をする者の業務上の信用及び需要者の利益を損なわないからである。
フレッドペリー最高裁判決では、商標機能論をベースとし、いわゆる“真正品の並行輸入の抗弁の3要件”によって、商標権侵害となるか否かが判断された。
つまり、3要件を満たせば、並行輸入しても、商標権の侵害とならない。
しかし、3要件のうち、特に「同一人性の要件」「品質管理性の要件」については、権利者側に資料等が偏っていることが通常だと思われるので、抗弁する側(被告側:輸入した側)としては立証しにくいことが多いでしょう。(意味不)
「101匹ワンチャン」並行輪入事件【第3版66】
(東京地裁平成6年7月1日判決)
<事実の概要>
外国で著作権者により真正に販売された映画のビデオカセットを並行輸入して日本で販売する行為が、当該著作権者の日本国内で有する頒布権を侵害するかが争われた裁判事件。外国で著作権者により製造販売された映画のビデオカセットの並行輸入品を日本国内で販売することは、著作権者の頒布権を侵害する、と判示された。
判決はビデオカセットは映画の著作物であり、頒布権を有するから、頒布権の侵害になる。
<私見とか>
著作権における並行輸入問題が争われた唯一の公判事例。
前提として、(判決では明確に述べていないが)ビデオカセットは映画の著作物で、頒布権を有し、正規譲渡により国内消尽する。
論点は、頒布権が国際消尽のするかという問題である。
頒布権は日本での公開に先立ち、ビデオが出回ると権利者が打撃を受けるという理由で、頒布権の国際消尽を認めなかった。
しかし、本判決には異論も多く、解説員[島並良]は、「結論として、劇場上映用フィルム以外の複製物については、頒布権が国内・国際共に消尽すると解するべきだろう」と述べている。