昨年も色々と楽しい著作権の争いが話題になっていた。
「著作権侵害の非親告罪化問題」とか、「『昆虫交尾図鑑』トレース問題」とかが特に大きく話題を呼んだような気がする。
振り返りたい。
正義の著作権と不本意な回り道【12月】
|
タイトル:昆虫交尾図鑑
著者:長谷川笙子
出版社:飛鳥新社
発行日:2013-12-07
|
『昆虫交尾図鑑』は昆虫の交尾シーンのイラストに、気の利いた一文を添えた本だが、そのイラストが写真撮影者に無断で模写(トレース)したものではないかと炎上した。
年末の2013年12月28日には著者の長谷川笙子さんが「クリエイターとしては真摯な態度ではなかった」と謝罪文を掲載した。
写真は著作物であり、その無断模写は著作権違反の犯罪である。
長谷川さんは、
・すべての写真著作権者に許可を取る。
・言い訳できる程度に構図を変える。
・自分で写真を撮り、模写する。
・すべて想像で描く。
のいずれかの方法をとるべきであった。
それを怠った彼女は「クリエイターとしては真摯な態度ではなかった」どころではない。ただの盗っ人である。
”正義の著作権”の下、裁きを受けるべきである。
でも叩かれたのかわいそう……法律的なことは明白であるが、以下感情的な感想をば。
まぁ一連の経緯を読んで思うことは、別にいいんじゃね。第三者立場からすると。
写真撮影者が「一言断りを入れてくれよ」と思うのは理解できるけど。
写真をそのまま載せるのはさすがにどうかと思うけど所詮模写だし、この本のテーマは面白おかしく昆虫の交尾を紹介することにあるのであって、イラストの構図とかを魅せるものではない。
似たようなコンセプトの本に『へんないきもの』があるが(これはたぶんちゃんと許可とっているんだろうけど。)、結構好きな本。クマムシとかこれで初めて知って感動ものだった。
|
タイトル:へんないきもの
著者:早川 いくを
出版社:バジリコ
発行日:2004-07
|
ちょっと脱線気味だが、許可を取らない例として『ボケて(bokete)』というウェブサービスがある。
『ボケて(bokete)』は一枚のイラスト(あるいは写真)にオリジナルな一言ボケを加えて、笑える一枚絵を作るというもの。
「無断のイラスト+オリジナルな一言」という点で近いものがある。
で、長々と書いたが、結論は何かといえば、「面白ければいいんじゃね、と思います」ということ。
「あんまり著作権、著作権と言っていると、面白いものがなくなってしまうよ」と思うのでした。
おしまい。
割れ厨の末路【12月】
「ハピメア」違法ダウンロードで争っていた件。決着。
|
タイトル:ハピメア
出版社:Purple software
|
2013年12月12日、コンピュータソフトウェア倫理機構事務局内にて、
弊社作品「ハピメア」違法ダウンロードの件に関して、当該人及び保護者との面談を行い、謝罪を受けました。
当該人より提出された始末書と顛末書の内容によると、当該人は、福島県警により調べられた結果、
弊社作品を含む違法ダウンロード等を行なっていたことを認めるものでした。
以後、再び著作権を侵害する行為やそれに準ずる行為を行った場合、当該人は、
刑事・民事にて提訴をされても非は免れないとし、保護者と連帯して責任を負うことを
署名押印した誓約書を頂いております。
株式会社クリアブルーコミュニケーションズ
未成年の割れ厨、保護者同伴で謝罪面談で決着。
これは妥当。株式会社クリアブルーコミュニケーションズが頑張った一件。
エロサイトは合法だった!【6月】
「ニコ動の埋め込みタグを使って貼り付けた行為が、違法か合法か」を争った裁判が2013年6月20日決着した。(大阪地裁)
詳細は(http://matimura.cocolog-nifty.com/matimulog/2013/07/jugement-3699.html)に詳しい。
結論を書くと、
正犯(公衆送信権侵害)になるか?
→ならない。※「埋め込みタグ」は通常のリンクと同じ。リンクのWeb送信は公衆送信権の侵害には当たらない。
従犯(公衆送信権侵害幇助)になるか?
→ならない。※著作権者の許諾があるかどうか不明の動画にリンクを張るのは、直ちに違法になるわけではない。
不法行為になるか?
→ならない。※著作権者から抗議があるなどリンク先の動画が著作権侵害物だと認識し得た時点で削除すれば、過失も否定される。
ということで、警告に対応さえすれば、合法!
で、今回は「ニコニコ動画」だったけど、「xvideos」を埋め込んでるエロサイトとか、「youtube」を埋め込んでアニメ配信してるサイトとか、も同様に合法である!(公衆送信権を侵害しない。)
幇助、不法行為についてはゴニョゴニョあるようだが、少なくとも自分がアップロードしない以上は、動画を埋め込んで視聴可能にしようが、音楽PVを公開しようが、公衆送信権を侵害しない。
幇助についてはイマイチ不明。
判決文には「著作権者の許諾があるかどうか不明の動画にリンクを張るのは、直ちに違法になるわけではない。」と書いてあった。
→「明らかに著作権者の許可のないコンテンツである場合には幇助になる。」という風にも解釈できる。
今回は権利者が個人であるから、権利者がアップロードしてた可能性が十分にあり得たために罪に問われることはなかったが、テレビ番組や映画などの場合、公式チャンネル以外にはアップロードしないだろうし、明らかに著作権者の許諾がない動画と判断されて、幇助の罪に問われていたかもしれない。
まぁこの先は、「違法コンテンツへのリンク」の問題に行き着くのだろう。リーチサイトとかあの界隈の話。
この判決の注目点は、法律上「動画の埋め込みタグは、通常のリンクと同様に扱われる」ということ。
JASRAC、「μTorrent」による著作権侵害で5名を告訴【6月】
割れ厨系のニュース
JASRAC、「μTorrent」による著作権侵害で5名を告訴
大阪府警察本部サイバー犯罪対策課と大淀警察署、港警察署、高槻警察署、住之江警察署と西警察署は6月20日までに、ファイル共有ソフト「μTorrent」を使用してインターネット上に音楽ファイルなどを公開していた大阪府内の男性5名を、大阪地方検察庁にそれぞれ送致した。JASRACが明らかにしたもので、JASRACは3月7日と27日に告訴を行なっていた。
発表によると、被疑者らは大阪府内在住の21歳の大学生2人、18歳の当時高校生だった1人、23歳と33歳のアルバイト2人。この5人は、JASRACの管理楽曲をを無断でインターネット上に公開し、不特定多数のユーザーに対して送信できるようにして著作権(公衆送信権)を侵害した疑いが持たれている。
http://news.mynavi.jp/news/2013/06/21/208/
逮捕されたのは20前後の5人。
Shareは30代の無職のおっさんが多いイメージだけど、Torrentは年齢層が若いのだろうか?
白い恋人、和解成立【2月】
よしもとクリエイティブ・エージェンシーは13日、同社が企画開発を行った菓子「面白い恋人」に関する訴訟について和解が成立したと発表した。
原告の石屋製菓は、吉本興業、よしもとクリエイティブ・エージェンシー、サンタプラネットの3社を被告とし、商標権侵害、不正競争防止法違反を理由に、被告らの販売する商品「面白い恋人」の使用および製造・販売差し止め、商品の廃棄の他、1億2,000万円の損害賠償の支払いを請求していた。
なんだか懐かしい。
訴訟開始から約1年3カ月の後、和解成立した。
和解内容は、
・今後、商品名はそのままに、4月1日をめどに新デザインのパッケージに変更した上で、販売を継続する。
・常設の販売場所はこれまで通り関西6府県圏内に限定。関西以外での販売は制限される。
・賠償金の支払いは発生しない。
若干、吉本に有利な和解内容だろうか?
石屋製菓は1億とかの請求をしていたのに損害賠償はゼロだし、請求が通ったところといえば販売地を限定した程度。
まぁ、話題になったことで誤認混同は解消されたのだし、目的は果たせたとも言えるのかな?
石屋製菓が勝つだろうと思っていたのに意外な結末。世論におもねったのか、それとも裁判コストに疲れたのか。
リーチサイトの定義、いまだ定まらず–著作権、法制問題小委第6回会合【2月】
著作権に関わる現行の法制度を議論する、文化庁の文化審議会の法制問題小委員会の2012年度第6回会合が12月13日、開催された。
2012年度の本小委の中心議題は“間接侵害”。第三者が介在し、間接的に著作権を侵害する行為に対して差し止め請求権を法律で定めるべきか、その場合の対象となる定義や類型が同小委下の専門ワーキングチーム(WT)で検討されてきた。また、その結果を踏まえ、7~9月にわたって権利関係団体を集めて、実状の報告や意見・要望等のヒアリングがなされた。
前回の会合では、間接侵害の立法化措置の必要性を委員の間で意見交換。議論は積極派と慎重派に二分したが、内容については、さらに整理・検討の余地があり、時間をかけて審議を続けていくべきという声が主流となった。
今回の会合ではまず、差し止め請求の対象として位置づけるべき間接行為者についてWTがまとめた3類型について委員が意見を交換。3類型とは、
(1)もっぱら侵害の用に供される物品(プログラムを含む。以下同じ)・場ないし侵害のために特に設計されまたは適用された物品・場を提供する者、
例)特定のゲームソフトを改変するメモリーカードの輸入・販売業者
(2)侵害発生の実質的危険性を有する物品・場を、侵害発生を知り、または知るべきでありながら、侵害発生防止のための合理的措置をとることなく、当該侵害のために提供する者、
例)権利侵害が発生し得るカラオケ店に通信カラオケサービスなどを提供するリース業者
(3)物品・場を、侵害発生を積極的に誘引する様態で提供する者–の3つ。
例)無許諾の音楽ファイルのダウンロードを積極的に呼び掛ける者
3類型について、東京地方裁判所判事(知的財産権担当)の大須賀滋氏は「裁判官側として、規範としての明確性が十分でなく立法化されると、実際の裁判では困ることが出てくると思う。現段階では直接侵害と間接侵害の切り分けが明確ではないので時間をかけて議論してほしい」と要望。また、「“場”という表現は比喩的表現としては理解できるが、条文ではもっと明確な言葉でなければ使えない。もう少し明確化する必要がある」(東京大学大学院法学政治研究家教授・森田宏樹氏)など、明確性に欠くという指摘や、対象を限定するための類型化が対象を広げてしまっている点への危惧が示された。
後半は、“リーチサイト”について議論。リーチサイトとは、アップロードされた違法コンテンツへのリンクを集めたサイトのこと。リンクサイト自体は著作権を侵害していなくても、違法行為を教唆・ほう助する間接侵害行為として差し止め請求権を認めることが各権利団体から求められている。しかし、その一方で「ユーザーの通常のインターネット利用に重大な影響を及ぼすことになりかねない」(インターネットユーザー協会)、「リンク先が違法である場合にはいろいろな段階があり、線引きが難しい」(日本音楽著作権協会)など反対、慎重派の意見もある。
WTの座長を務めた東京大学大学院法学政治学科研究科教授の大渕哲也氏は「WTではリーチサイト全体ということであれば、立法化が必要だという意見。ただし、そこに含まれるリンク単体についてはリンクによってダウンロードを伴うか視聴に限られるかなど様態や行為の内容が異なるので個別の判断が必要」と、WTでの検討結果を説明している。
これを受け、立教大学法学部教授の上野達弘氏は「違法サイトにリンクを貼るというのは正当化できることではない。少なくとも違法サイトであるという認識のもとでリンクされたものに対して差し止め請求できるという考え方であるとは思うが、現状、FacebookとかTwitterとかYouTubeとかでユーザーが自分のお気に入りをリンクしているという状況で、必ずしもリンク先が違法でないという場合もある。検索結果のリンク先に違法コンテンツが含まれているといったこともあり、そうしたものを加えると萎縮効果が大きい。さしあたり個別の規定を設け、一定の条件に差し止め請求の対象になるというほうが無難」と意見している。
そのほか、「リサーチサイトの定義が非常に広がりすぎていて、言葉の整理をもう少しすべきではないか。個人のブログのリンクやTwitterのつぶやきに対して問題になることはないという点をより積極的に担保していかないと、かなりの萎縮効果になってしまう」(神奈川大学経営学部准教授・奥邨弘司氏)、「立法化するとすれば、差し止めと損害賠償規定が当然必要だが、刑罰はどうするのか?」(明治大学特任教授、東京大学名誉教授、弁護士・中山信弘氏)など、改めて実態の把握と整理を求める声が続いた。
一方、「法文化する際に、リーチサイトをどう定義するかは、どういう書き方をしても不明確になる恐れがある面は否めない。サイトの内容を見て判断するのではなく、一定の手続きを経ても相手が応じない場合などの手順を踏んで悪質性を確定する方法を用意して、間接侵害の対象か否かを判別するといった少し違った発想で知恵を出していくべき」と松田氏が意見している。
そのほか「リーチサイトが海外に設置されているものが多いというのであれば、せっかく立法化してもあまり意味がない」(中山氏)、「リーチサイト規制の強制執行が可能なものなのか。相手が従わない場合はどうなるのか」、(一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授・村上政博氏)と、改めて議論の原点を問う質問と、今後の課題が示された。
http://japan.cnet.com/news/business/35026394/
リーチサイトとは、アップロードされた違法コンテンツへのリンクを集めたサイトのこと。
リンクサイト自体は著作権を侵害していなくても、違法行為を教唆・ほう助する間接侵害行為として差し止め請求権を認めることが各権利団体から求められている。しかし、その一方で「ユーザーの通常のインターネット利用に重大な影響を及ぼすことになりかねない」(インターネットユーザー協会)、「リンク先が違法である場合にはいろいろな段階があり、線引きが難しい」(日本音楽著作権協会)など反対、慎重派の意見もある。
必要性はあるだろうけど、法整備は難しそう。
効果的に規制するには個々人ではなくて、「リーチサイトの運営目的である収入源」、「ドメインやサーバー、プロバイダ」、「検索エンジン」などを攻めると良いのではないかと思う。
総括
やはり著作権は面白い。無知からの炎上は見てて楽しい。
あと、「著作権侵害だ」と掲載しているまとめサイトや個人ブログが堂々と無断転載しているのも面白い。「お前はどうなんだ、検証のためなら良いのか?本当に引用か?」と突っ込んでしまう。
「お前はどうなんだ!」とか「お前が言うなや」ってのは個人的な琴線に触れる。ネット放流を嘆く二次同人作家とか、昆虫交尾図鑑を叩くxvideosヘビーユーザーとか。
”法律”と”倫理道徳”
法律では括りきれないあいまいな権利。著作権。
法の不備で有罪にならない場合がある。たとえば上記のリーチサイトの例。
法律があるわけではないため、厳密には有罪ではない。しかし、それはそうした行為を想定していなかったという法の不備であって行為自体が許される訳ではない、と考えられる。法的には違法と言えないが、社会的には反社会的行為と言える。
逆も然り。厳密には有罪だが、社会的には許される場合もある。去年だったかの法改正で例外として修正されたが、写真の映り込みの問題とか、ウェブのキャッシュの問題とか。実は法的にはずっと違法だったのである。
法律があれば、厳密には有罪である。しかし、それはそうした行為を想定していなかったという法の不備であって行為自体が罰されるべきではない、と考えられる。法的には違法と言えるが、社会的には、許容されるべき行動と言える。
2014年、今年も良い年でありますように。